MENU

センターニュースNo.38

巻頭言

人を値踏みするということになってしまうのか

20 1 8 年に大阪市内で聴覚支援学校に通う女児( 当時1 1 歳) が重機にはねられて死亡した。その事故で将来得られたはずの「逸失利益」注1の算定について争われた判決が今年の2 月2 7 日に大阪地裁であった。

地裁は、逸失利益を平均賃金の「8 5 % 」が相当であるとして、重機の運転手側に約3 7 7 0 万円の賠償を命じた。この判決では、難聴によってコミュニケーションに制限があるものの、この女児には学習面において支障はなく、様々な就労の可能性があったと認定、さらに音声認識アプリなどで難聴の影響も小さくできるとし、逸失利益を聴覚障害者の平均収入( 平均賃金の約7 割) よりも高く算定したとのことだ。訴訟では、遺族側は「健常者と同水準」、被告側は平均賃金の「6 割」を主張。

遺族側は判決後、「1 5 % を削られたのはおかしい」として控訴した。

障害がある場合では、逸失利益は低く算定される傾向があると言われており、その他にも長期間失業していた人やパートなどの非正規雇用者の場合も算定額は低いとされている。しかしその一方で、算定額が膨大なものになるケースもある。

それは、優秀で将来を嘱望されていた若者や医師などの専門職として高収入があった人などである。

さて、この算定額の差についてどのように理解すべきなのか。逸失利益の本来の意味から考えれば、このような算定額の差が生じるのは仕方がないし、算定の計算方法ももっともらしいと思う。したがって、この差は“ 差別ではない” となるのだろうけれど、それでも・・・・と、これは当然の格差だと言えるのかということに引っかかるのだ。

極端な事例を挙げて考えてみたい。逸失利益がゼロという算定が出る人についてだ。一般的に、重度知的障害児などの場合、就労は困難とみなされ、将来的に収入が得られる蓋然性がないとして、逸失利益を認めないとしてきた経緯がある( 軽・中程度の知的障害は、最低賃金などによって算定された逸失利益が認められている) 。筆者には、こうした考え方は、まるで稼ぐことができない人の価値はゼロだと言われているように感じるのだ。

では、どうしたらよいか。筆者の宿題がまた一つ、増えた。

注1 ) 逸失利益とは、「債務不履行、不法行為がなければ得られたはずの利益」のことで、本来得られるべきにもかかわらず、失われた利益ということである。本人以外に責任があるとする死亡や傷害に起因する損害賠償に含まれるもので、死亡事故の場合、基礎収入に就労可能年数をかけ、生活費として一定割合を控除して算定される。基礎収入とは、就労していればその収入額で、学生などの未就労の場合では、平均賃金を用いて算出することになる。また逸失利益が認められるためには、相当程度の確率で収入が得られる確実さが必要とされている。

センターニュースのダウンロード

センターニュースNo.38

このページのトップへ